2026-10-07
「払わなければ渡さない」は最後のカード
OTC類似薬の追加負担
薬局カウンターが制度の”決済端末”になる日
2026年9月30日、厚生労働省はOTC類似薬の「一部保険外療養」制度の施行通知を発出し、同日の記者説明会で、患者が薬局で追加負担(特別の料金)を支払わない場合には調剤拒否も「起こり得る」との見解を示した。
2027年3月の施行まで残り5か月。処方の判断は医師が下すが、料金を計算し、徴収し、患者に理由を説明するのは薬局である。制度の摩擦はすべて薬局のカウンターに集まる。今回の「起こり得る」は、薬局に新しい権限を与えたというより、制度の最終決済点としての責任が薬局にあることを確認した発言と読むべきだ。本稿では、応需義務との関係、システム改修の論点、そして「拒否」の手前で薬剤師が打てる手を整理する。
制度の骨格をおさらいする
一部保険外療養は、OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量も変わらない医療用医薬品を対象に、薬剤費の4分の1を保険給付から外し、「特別の料金」として患者に負担を求める仕組みだ。保険外併用療養費制度の中に新設され、2026年5月に成立した改正健康保険法が根拠となる。
対象は77成分・1,042品目。ロキソプロフェン、フェキソフェナジン、ロラタジン、ヘパリン類似物質など、薬局で日常的に扱う成分が並ぶ。厚労省は年間約900億円の医療費抑制効果を見込み、2028年以降は毎年4月の薬価改定に合わせて対象成分を更新するとしている。
一方、18歳年度末までの子ども、生活保護受給者、がんや指定難病の治療に関連する使用、入院中や処置・手術に伴う使用、医師が長期使用を医療上必要と判断した場合、OTC医薬品の添付文書で服用しないこととされている妊婦などは、特別の料金の対象外となる。処方箋には専用欄が設けられ、長期収載品の選定療養との二重負担は避ける整理だ。
負担額の感覚をつかむため、薬剤費(10割)1,000円の処方で試算してみる。特別の料金は250円。残る750円に通常の自己負担割合がかかるため、3割負担の患者は225円、1割負担の患者は75円となる。薬剤料部分だけを見れば、3割負担で300円から475円(約1.6倍)、1割負担で100円から325円(約3.3倍)への増加だ。厚労省資料は選定療養の特別の料金に消費税がかかる点にも触れており、実際の請求額はさらに上振れする。技術料を含めた1回の会計額で見れば増加率は小さくなるが、「なぜ前回より高いのか」という問いが窓口で生まれることに変わりはない。
「起こり得る」の正しい読み方
薬剤師法第21条は、正当な理由がなければ調剤の求めを拒んでほならないと定めている。今回の厚労省の説明は、保険給付の対象外とされた部分の費用を患者が負担しない場合、その療養を提供しないことが「正当な理由」に該当し得るという整理を示したものだ。選定療養をはじめ、保険外併用療養費制度の既存の考え方を延長した結論であり、法理として特段目新しいものではない。
ただし、ここで二つの誤読を避けたい。
一つ目は、「拒否してよい」という許可証として読むことだ。発言は「起こり得る」であり、「拒否すべき」でも「拒否を推奨する」でもない。調剤拒否の結果、患者は薬を受け取れずに帰る。その患者が必要な治療から離脱すれば、制度の公平性という目的とは逆の結果になる。数十円から数百円の未払いを理由に調剤を止めることが、医療者として釣り合う判断かどうかは、ケースごとに問われ続ける。
二つ目は、「拒否はできない」と思い込み、未収金を抱え込むことだ。基準が言語化されたことで、薬局は「払えないなら処方どおりには出せない」と説明する根拠を得た。カスタマーハラスメント対策で調剤応需義務の「正当な理由」が議論された流れとも重なり、現場が判断基準を持てるようになった意義は大きい。例えるなら、調剤拒否は消火器のピンのようなものだ。抜ける状態にしておくことは重要だが、抜く前に打つべき手がいくつもある。
薬局カウンターは制度の「最終決済点」になる
この制度の構造上の特徴は、判断と徴収が分離していることだ。
・判断する人:医師
対象外とする理由(長期使用の必要性、がん・難病治療との関連など)を処方箋の専用欄に反映する。
・徴収する人:薬局
処方箋の記載に基づき、特別の料金を計算し、患者から受け取る。
・説明する人:事実上、薬局
患者が「なぜ自分は払うのか」を最初に尋ねる相手は、会計の場にいる薬剤師や事務員だ。
医師の判断の根拠となる病名や使用期間の情報は、薬局から見えない場合が多い。それにもかかわらず、患者の不満と疑問は薬局で顕在化する。いわば薬局は、上流で決まった条件をそのまま実行する「決済端末」の役割を担わされる。決済端末が止まる典型的な場面は、専用欄の記載漏れや誤りが疑われる場合、患者が対象外の要件に該当すると主張する場合、そして患者が支払いを拒む場合の三つが想定できる。今回の「起こり得る」は三つ目だけを扱っている。現場の負荷を大きく左右するのは、むしろ一つ目と二つ目である。
システム側の論点――レセコンだけでは終わらない
医療テックの観点では、改修範囲は「計算式を一本追加する」では済まない。
① 処方箋専用欄の読み取り
紙の処方箋では目視確認と入力が必要になる。電子処方箋や二次元コードで同等の情報がどう連携されるかは、今後の仕様公開を確認する必要がある。入力ミスはそのまま誤徴収につながる。
② 料金計算ロジック
特別の料金、残余部分への自己負担割合の適用、消費税、端数処理、長期収載品の選定療養との調整。複数の負担区分が一枚の処方箋に混在するケースへの対応が要る。
③ 医薬品マスタの更新運用
対象成分は毎年4月に更新される。薬価改定と同時期にマスタ更新と対象判定の切り替えが重なるため、ベンダー任せにせず自局での検証手順を持っておきたい。
④ 領収書・明細書の表示
患者に説明するための表示設計が、窓口でのトラブルを減らす最も安価な手段になる。「特別の料金」が何に対する費用なのかを一目で示せるかどうかが鍵だ。
⑤ 未収金の管理
支払いを保留した患者、後日支払いを約束した患者の記録と追跡。POSや会計システムとの連携も含めて検討が必要になる。
2024年10月に始まった長期収載品の選定療養で、多くの薬局は同種の改修と窓口説明を一度経験している。その時の問い合わせ記録や説明の失敗例は、今回の準備で最も役に立つ社内資産だ。
「拒否」の手前で薬剤師が打てる手
支払いをめぐる場面で、調剤拒否に至る前に検討できる選択肢を整理する。
・疑義照会による対象外該当性の確認
患者が「毎日使っている」「難病の治療中だ」と述べ、専用欄の記載と食い違う場合は、処方医に確認する余地がある。徴収の前に記載の正確性を担保することは、患者の不利益を防ぐと同時に、薬局の説明責任を果たす行為でもある。
・同一成分のOTC医薬品の提案
患者の負担感によっては、自局で取り扱う同一成分のOTC医薬品の方が納得を得やすい場合もある。ただし、受診の目的や症状の経過を確認したうえでの提案であり、安易な置き換えは避けるべきだ。
・事前の周知
施行前から待合室の掲示や薬袋への同封物で制度を知らせておけば、窓口で初めて知った患者の反発は大きく減る。厚労省が準備する患者向け資材も活用したい。
一方で、こうした手を尽くしても支払いが得られない場合に備え、どの段階で誰が判断し、どう記録するかを局内で決めておく必要がある。判断を個々の薬剤師の裁量に委ねたままでは、対応のばらつきがそのまま患者間の不公平になる。
評価が分かれる点も押さえておく
制度そのものの評価は分かれている。厚労省は、OTC医薬品で対応している人との公平性確保と、現役世代の保険料負担の軽減を目的に掲げる。これに対し、患者団体や一部の医療関係者は、受診控えや服薬中断による重症化、低薬価品で実質負担率が大きく上がる計算上の歪み、仕組みの複雑さを指摘してきた。
薬局の立場から見ると、どちらの論点も窓口で観察できる。追加負担を理由に薬を受け取らずに帰る患者、服薬の間隔を自己判断で空ける患者が増えるかどうかは、施行後に薬局が最も早く把握できる情報だ。対象範囲の拡大や負担割合の引き上げが今後検討される見通しである以上、現場の観察を記録し、職能団体や行政に届けることは、制度の次の設計に関与する数少ない手段になる。
参考資料
- 厚生労働省「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施について」第213回社会保障審議会医療保険部会 資料1(2026年8月27日)
- 日刊薬業「追加負担、未払いなら調剤拒否も 一部保険外療養で厚労省、『起こり得る』」(2026年10月1日)
- 日本経済新聞「OTC類似薬の追加負担、厚労省が対象1042品目公表 27年3月開始」
- 日経メディカル「2027年3月に始まるOTC類似薬の一部保険外療養、診療はどう変わる?」(2026年10月)
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