2026-10-06
「導入率」の先を読め
医療DXダッシュボードが映す、薬局の次の課題
デジタル庁と厚生労働省が2026年7月に公開した「医療DXに関するダッシュボード」が、9月11日に更新された。マイナ保険証、電子処方箋、マイナポータル、PMH(Public Medical Hub)の指標を1か所で横断的に確認でき、CSVとExcelで元データもダウンロードできる。数字を並べてみると、薬局の現場にとって本当に重要なのは「導入したか」ではなく「どう使われているか」だと分かる。電子処方箋の9割超は実は紙、重複投薬チェックでは6件に1件がアラート――ダッシュボードの数字から、薬局が次に取り組むべき課題を読み解く。
「導入」「活用」「効果」を1枚で見られる初めての公式データ
これまで医療DXの進捗は、施策ごとにばらばらの資料で公表されてきた。電子処方箋には専用のダッシュボードがあり、マイナ保険証の利用率は社会保障審議会の資料で追う必要があった。今回のダッシュボードは、「医療DXの推進に関する工程表」(2023年6月医療DX推進本部決定)に沿って、施策ごとの指標を「導入」「活用」「効果」の3段階で整理している。
掲載されている主な指標(2026年9月11日更新時点)は次のとおりだ。
| 領域 | 指標 | 最新値 |
|---|---|---|
| 保険資格確認 | マイナ保険証の登録率 | 91.5%(2026年7月) |
| マイナ保険証の利用率 | 69.7%(2026年6月) | |
| オンライン資格確認の利用件数 | 約3億821万件/月(2026年7月) | |
| 処方・調剤 | 電子処方箋の導入率(オン資導入施設比) | 42.5%(90,115施設、2026年8月) |
| 調剤結果の登録率 | 91.4%(2026年7月、推計値を含む) | |
| 重複投薬等チェックの実行件数 | 約7,361万件(2026年8月) | |
| 健康管理 | マイナポータルでの医療情報の閲覧件数 | 約465万件/月(2026年8月) |
| 医療保険情報取得APIの連携事業者数 | 53社 | |
| PMH | 医療費助成のオン資対応医療機関等数 | 90,156施設(2026年8月) |
| 医療費助成のオン資利用件数 | 約977万件/月(2026年8月) |
電子カルテ、自治体検診、予防接種、介護情報基盤は「今後掲載予定」とされている。電子カルテ情報共有サービスの本格稼働に合わせて、指標が追加されていくとみられる。
電子処方箋の「9割超は紙」という現実
薬局関係者にとって最も示唆に富むのは、処方情報の登録数の内訳だ。2026年8月の処方情報の登録数は約1,476万件。そのうち「電子処方箋」として薬局で受け付けた件数は約65万件で、残る約1,410万件は「引換番号付き紙処方箋」だった。電子の比率は約4.4%にとどまる。
つまり、電子処方箋管理サービスには処方情報が蓄積されつつあるが、患者が受け取る処方箋はいまだに大半が紙である。薬局の電子処方箋導入率はすでに9割に達したと報じられている一方、発行側の医療機関の導入が遅れていることが、この構図の背景にある。
ただし、これを「電子処方箋は失敗」と読むのは早計だ。引換番号付き紙処方箋でも、処方情報は電子処方箋管理サービスに登録され、重複投薬等チェックの対象になる。薬局の調剤結果の登録率も90%前後で推移している。紙か電子かという「媒体」の議論よりも、処方・調剤情報が全国で共有される「データ基盤」が機能し始めていることを評価すべきだろう。薬局にとっての実務上の変化は、紙が残るかどうかではなく、他院・他薬局の調剤結果が見えるようになったことにある。
6件に1件がアラート――「アラート疲れ」の兆候
もう1つ注目したいのが、重複投薬等チェックのアラート件数だ。2026年8月は、実行件数約7,361万件に対し、重複投薬のアラートが約1,189万件、併用禁忌のアラートが約2万件だった。重複投薬アラートの発生率は約16%、つまり6件に1件で警告が出ている計算になる。この比率は過去1年間、15〜16%台でほぼ一定だ。
一方、併用禁忌のアラートは1万件あたり約2.7件と、ごく少ない。このことは、重複投薬アラートの大半が、定期処方の継続や前回処方の残日数との重なりといった「臨床的には想定内」のものである可能性を示している。アラートの多くが確認のみで済むものであれば、現場で警告を読み飛ばす「アラート疲れ」が起きやすい。本当に止めるべき併用禁忌や、同一成分の重複処方が埋もれてしまうおそれがある。
ダッシュボードはアラートの「件数」を効果指標として示しているが、アラートが疑義照会や処方変更にどれだけつながったかという「アウトカム」はまだ示されていない。この部分は、薬剤師が現場から示せるエビデンスの空白地帯でもある。
マイナ保険証とPMHが薬局の受付を変える
保険資格確認の領域では、マイナ保険証の利用率が2025年11月の49.5%から12月には63.2%へと急伸し、2026年6月には69.7%に達した。従来の健康保険証の経過措置が2025年12月1日に終了したことが大きい。なお、この利用率は「マイナ保険証の利用人数÷レセプト件数」で算出された参考値であり、厳密な患者の利用割合とは異なる点に注意が必要だ。
見落とされがちなのがPMHの伸びだ。こども医療費助成などの受給資格をオンラインで確認した件数は、2025年8月の約94万件から2026年8月には約977万件へと、1年で約10倍になった。対応する医療機関・薬局も約9万施設に拡大し、41都道府県・568市区町村で利用できる状態にある。紙の受給者証の確認や、有効期限切れによる返戻は、薬局の受付業務のなかで地味だが確実な負担だった。PMHの普及は、この負担を構造的に減らす可能性がある。
データを読むうえでの注意点
ダッシュボードの数字を発表や論文に引用する際には、次の点に留意したい。
・ 推計値を含む
調剤結果の登録率は、分母の処方箋枚数をレセプトから集計するため、直近数か月は推計値である。都道府県によっては100%を超える場合もあり、上限を100%として表示されている。
・ 定義と実データの違い
重複投薬等チェックの実行件数は、定義上「累計値」とされているが、公開CSVの値は月ごとに増減しており、月次の件数として読むのが妥当と考えられる。
・ 分母の違い
電子処方箋の導入率の分母は「オンライン資格確認等システムの導入施設数」であり、全医療機関・薬局の数ではない。
・ 時点のずれ
指標ごとに最新月が異なる(マイナ保険証は7月、電子処方箋は8月など)。複数の指標を並べるときは、時点をそろえる必要がある。
📌 薬局が今すぐ取り組むべき5つのアクション
自局と地域の数字を確認する
専用の「電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード」では、市区町村単位で導入施設まで確認できる。近隣の処方元医療機関が電子処方箋を導入しているかを把握し、門前・面の両方で今後の受付体制を見直す。
重複投薬アラートの対応ルールを決める
アラートを「確認のみ」「疑義照会」「処方変更の提案」に分類する局内の基準をつくり、併用禁忌と同一成分の重複を確実に拾える運用にする。
アラートの「その後」を記録する
疑義照会や処方変更につながった件数を記録しておけば、薬剤師の介入効果を示す独自のデータになる。地域の薬剤師会単位で集約できれば、政策提言の根拠にもなる。
PMHの対応状況を確認する
所在地の自治体がPMHの医療費助成に対応しているかを確認し、レセコンやオン資端末の設定、受付スタッフへの周知を済ませる。
一次データを自分で使う
ダッシュボードのCSVとExcelは誰でもダウンロードできる。地域の研修会や患者向けの説明、学会発表の資料では、二次報道ではなく一次データを直接引用する習慣をつけたい。
出典・参考リンク
デジタル庁「医療DXに関するダッシュボード」(2026年9月11日更新)
https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard/healthcare-dx
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