2026-08-03
「誤情報を信じる人」の6割超がワクチンを打つ
3万人調査が薬局の情報戦略に突きつける宿題
「ワクチンのデータは捏造されている」——そう信じている人の63.6%は、実は接種を受けているか、受ける意向を示している。東京大学と東北大学の研究チームが約3万人を対象に行った大規模調査は、「誤情報を信じる=ワクチン拒否」という現場の思い込みを覆した。むしろ問題は、誰が何を信じているかではなく、誰が何を信頼しているかにある。カウンター越しに患者と向き合う薬局にとって、この結果は単なる学術トピックではなく、情報提供のやり方そのものを問い直す材料となる。
誤情報と接種拒否は、思うほど直結していない
東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの古瀬祐気教授と、東北大学大学院医学系研究科の田渕貴大准教授の研究チームは、2021年9〜10月に実施された全国オンライン調査「JACSIS」のデータ(15〜80歳、約3万人)を用いて、新型コロナワクチンに関する誤情報と接種意向の関連を統計解析した。成果は2026年7月31日、国際科学誌「Frontiers in Public Health」に掲載されている。
調査結果でまず注目すべきは、誤情報を信じている人のうち63.6%が接種済みか接種意向ありと回答した点だ。ワクチン拒否者の中で誤情報を信じている割合は36.6%にとどまり、逆に言えば拒否者の63.4%は誤情報を信じていない。つまり「誤情報を信じているから打たない」という単純な図式は、データ上は少数派の説明にしかならない。ただし、信じている誤情報の数が増えるほど接種意向は低下する傾向があり、誤情報の「量」は依然として無視できない変数である。
情報源への信頼が、接種意向を分けている
この研究のもう一つの核心は、誤情報を信じている人と信じていない人とで、接種意向に影響する要因がまったく異なるという発見だ。
誤情報を信じていない人では、高齢であることと政府からの情報接触が高い接種意向と結びついていた。一方、誤情報を信じている人では、この傾向は見られず、むしろ若年層(20歳代)で接種意向が高く、政府からの情報は接種意向とほとんど関連しなかった。
代わりに効いていたのが、医師・テレビ・新聞からの情報接触である。誤情報を信じているグループでは、これらの情報源との関連が、誤情報を信じていないグループよりもむしろ強く現れた。インターネットやSNSからの情報収集は両グループでワクチン忌避と関連していたが、誤情報を信じているグループでその関連はより強かった。さらに、若年・低収入・SNS中心の情報収集という3つの特徴は、「ワクチン忌避」と「誤情報を信じやすさ」の両方に共通する背景因子として同定されている。
薬局にとっての意味——「訂正」より「信頼される情報源になること」
この結果を薬局経営者・薬剤師の視点で読み替えると、示唆は明確だ。誤情報を信じている患者に対して、正しさを突きつけて訂正することは、政府発の一律メッセージと同じ構造を持ち、効果が薄い可能性がある。研究が示すのは、政府ではなく「医師」という、対面で個別に接する専門職からの情報が、誤情報を信じている層にこそ強く効いているという事実だ。
薬局薬剤師は、医師と並んで患者に最も身近な医療専門職であり、しかも医師よりアクセスのハードルが低い。若年層・低収入層・SNS中心の情報収集という「誤情報を信じやすく、かつ忌避もしやすい」層に、日常的に接点を持てる数少ない医療機関でもある。この調査結果は、薬局が担うべき役割を「誤情報の訂正機関」ではなく「個別化された信頼できる情報源」として再定義するよう促している。
同時に、誤情報を信じている患者の63.6%がすでに接種している、あるいは接種意向を持っているという事実は、カウンターでの対応姿勢にも影響する。疑いを口にする患者を一律に「ワクチン拒否者」として扱うのではなく、対話の余地がある相手として接する姿勢が、データによって裏付けられたと言える。
📌 薬局が今すぐ着手すべき5つのアクション
カウンター対応を「訂正」から「個別対話」へ切り替える
患者が誤情報らしき発言をしても即座に否定せず、何を不安に思っているかを聞き取るところから始める対応フローをスタッフ間で共有する。
若年層・低収入層への接点をSNS上にも設計する
この層は情報源としてSNSへの依存度が高い。薬局の公式SNSアカウントやショート動画等で、専門職としての正確な情報を、行政的な広報とは異なるトーンで発信する。
スタッフ研修に「誤情報信奉者の63.6%は接種意向あり」という数値を組み込む
先入観による患者対応のばらつきを防ぐため、統計的事実として研修資料に反映する。
一律のポスター・チラシ配布から、対象者属性別メッセージ設計への転換
高齢者向けと若年層向けで、響く情報源(政府広報 vs 医師・専門職の言葉)が異なることを踏まえ、掲示物や声かけの内容を層別化する。
次の感染症危機に備え、地域の医師会・保健所との情報連携体制を平時から構築する
本研究は将来の感染症危機における公衆衛生コミュニケーション設計への示唆として位置づけられている。薬局が「信頼される情報源」としての役割を平時から培っておくことが、有事の接種率向上に直結する。
出典・プレスリリース
東京大学 プレスリリース(2026年7月31日掲載)
「ワクチンに関する誤情報を信じていてもワクチンを接種する意向のある人々の特徴を解析」
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0406_00012.html
原著論文:Furuse Y, Tabuchi T. “Vaccine-related misinformation and attitude toward COVID-19 vaccination in Japan,” Frontiers in Public Health, 2026. doi:10.3389/fpubh.2026.1805589





