2026-07-24
窓口業務、保険外へ?
オンライン診療の”別途徴収”ロジックが薬局に迫る
窓口業務のコストは、これまで診療報酬に埋め込まれ、患者から見えない形で徴収されてきた。財務省はこの構造にメスを入れようとしている。オンライン診療で認められた「システム利用料の別途徴収」という前例を足がかりに、対面窓口のコストも保険給付の外に切り出すべきだという論理を提起したのだ。この発想が薬局の受付・会計業務にまで及べば、調剤基本料の構成そのものが問い直されることになる。
財政審が提起した論点
財政制度等審議会が6月にまとめた建議は、病院・診療所の窓口業務にかかる人件費やシステム導入費用について、「診療行為そのものではなく、そもそも診療報酬で評価される必然性はない」との考え方を打ち出した。初診料・再診料に組み込まれてきたコストを、保険給付外サービスとして患者に直接請求できるよう検討すべきだという提言である。
背景にあるのは、2026年度診療報酬改定で厚生労働省が6月1日に施行した規定だ。オンライン診療における「予約・受診にかかるシステム利用料」は、保険適用外として医療機関が独自に金額を設定し、患者から別途徴収できるようになっている。財務省はこの仕組みを引き合いに、対面診療の窓口業務にも同じ理屈を当てはめられないかと問うている。
オンライン診療との比較に潜む論理構造
ここで押さえておくべきは、財務省の論理が「業務の性質」ではなく「診療行為との距離」を切り分けの基準にしている点だ。窓口業務は診察・処方そのものではなく、あくまで周辺業務だという整理である。この理屈が成立するなら、薬局における受付・会計・レセプト処理、あるいは電子処方箋の照会対応といった業務も、同様に「調剤行為そのものではない周辺業務」として切り出しの対象になり得る。
実際、電子処方箋管理サービスやオンライン服薬指導のシステム利用料をめぐる議論は、病院のオンライン診療と地続きだ。薬局側がすでに一部で直面している「システム利用料をどう扱うか」という論点が、対面窓口の会計・薬歴管理業務にまで拡大する可能性は否定できない。
薬局経営への構造的インパクト
この動きが薬局に波及した場合、想定される影響は大きく3つに分けられる。
① 調剤基本料の構成要素の再定義
窓口業務コストが調剤基本料から切り離されれば、薬局は別途、患者から徴収する仕組みを整備する必要が生じる。これは収益構造そのものの見直しを迫るものであり、単なる算定ルールの変更にとどまらない。
② 患者同意の実務負担増加
財務省案が実現すれば、追加費用について事前に患者へ説明し、同意を得るプロセスが必須となる。対面窓口でこれを行うには、高齢患者や複数疾患を抱える患者への説明コストが無視できない。日本医師会の松本吉郎会長が5月の会見で「病に苦しむ方や高齢の方に大きな負担がかかる」と反発した点は、薬局にもそのまま当てはまる懸念だ。
③ 業務の可視化とコスト管理の必要性向上
財務省は窓口業務コストが初診料に埋没し可視化されていないことを問題視している。薬局においても、受付・会計・薬歴管理にかかるコストを個別に把握できていない薬局は少なくない。仮に切り分け議論が具体化すれば、レセコンの入力業務や患者管理システムのコストを定量的に説明できる体制が求められる。
現場が直面する実務的な壁
厚労省の担当者は「患者は窓口を経なければ受診ができず、診療行為と明確に業務を切り分けられない」と慎重な姿勢を示している。この指摘は薬局にも重なる。患者は受付・会計を経ずに調剤を受けることはできず、窓口業務と調剤行為を切り離すこと自体に無理があるという構造的な問題は変わらない。加えて、保険外サービスとして徴収するには患者同意が不可欠であり、同意を得られなければ増収効果は限定的になる。制度設計と現場実務の間には、まだ大きな溝がある。
なお、26年度改定では窓口業務コストの切り分けそのものは実現していない。予約キャンセル料やWi-Fi利用料の保険外徴収が認められた程度であり、財務省が目指すのは28年度改定に向けた論点整理の段階だ。この点は見通しであり確定事項ではないことを踏まえておく必要がある。
📌 薬局経営者・薬剤師が今取るべき対応
窓口業務コストの可視化に着手する
受付・会計・薬歴管理・レセプト処理にかかる人件費とシステム費用を、調剤行為と切り分けて把握できる体制を整える。
電子処方箋・オンライン服薬指導のシステム利用料の扱いを点検する
すでに保険外徴収の対象となり得る業務がないか、現行の運用を確認する。
患者同意の説明フローを整備する
追加費用が発生する場合に備え、高齢患者にも分かりやすい説明資材や同意取得の手順を事前に準備する。
28年度改定に向けた業界動向を継続的に注視する
日本薬剤師会や関連団体の意見表明、中医協での議論の進捗を定期的に確認する。
収益構造のシナリオを複数用意する
窓口業務コストが切り出された場合と現行維持の場合の両方で、薬局経営への影響を試算しておく。
窓口業務の切り分け論は、まだ28年度改定に向けた論点の一つに過ぎない。しかし国民所得に対する社会保険料負担比率が2026年度見通しで17.6%に達し、政府が骨太の方針で引き下げ目標の検討を掲げる中、社会保障費抑制の圧力は今後も強まる。薬局経営者は、制度設計が固まってから対応するのではなく、コスト構造を可視化し、複数のシナリオを描いておくことが、次の改定局面での交渉力につながるはずだ。





