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コラム

慢性疾患治療薬のアドヒアランス向上を目指した服薬指導とは

2013-06-01

治療継続率が低下しがちな慢性疾患のアドヒアランス向上を目的とした服薬指導の在り方について、医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー取締役の堀美智子さんから、そのポイントとテクニックを伝授していただいた。

アドヒアランスという言葉が最近注目され、いろいろなところで使われるようになってきています。まずは私自身がアドヒアランスについて真剣に考えなければいけないと思った背景についてお話したいと思います。

どんな気持ちで患者に薬を渡しているか

仕事柄、ドクターにインタビューをする機会が多く、皆さん非常に好意的に質問に答え、指導してくださいます。しかし、以前パーキンソン病の専門医にお会いしたとき、辛辣なご批判を受けたことがありました。インタビューの終盤、パーキンソン病治療薬の副作用についてお聞きしようとしたら、ドクターの顔色が変わってしまったのです。そして「薬剤師はどうして副作用のことばかり言いたがるんだ!」と激昂されてしまいました。しばらくインタビューへ行くのが怖くなってしまうほどの経験だったのですが、あのとき言われたことを思い返すと、こういうことだったのだと思います。

最初から自分がパーキンソン病だとわかって来院される方は多くありません。脚が痛くなったりして、整形外科などを受診される方もいらっしゃいます。検査をした結果、精密検査を勧められ、パーキンソン病の専門医を紹介される。患者さんは単なる脚の痛みだと思っていたのに、よく分からない病名を告げられて、不安でいっぱいになってしまいます。そんななか薬局へ行って薬と一緒に渡された紙には、幻覚妄想などの副作用に注意うんぬんと書かれている。患者さんにしてみれば、自分はまだそれほどひどくないのだから、こんなに怖い薬を飲む必要はないだろうと思ってもしかたありません。薬剤師は本当に薬を飲んでほしいと思って、患者さんと接しているのだろうか。そういう苛立ちをドクターは私にぶつけたのだと思います。“薬剤師が話すこと自体が害になる”という意味での“薬害”であってはいけないのです。

当然ながら、薬は飲んでいただかなければ効きません。うちの薬局にいらっしゃる高血圧の患者さんの服薬継続率を調べようとしたのですが、数値の特定化は簡単なことではありませんでした。来局されなくなったとき、普通薬剤師はこう考えます。「血圧を正常値にしなければいけないことは、皆さん分かっているはずです。これだけ薬局があるんだから、うちに来なくなったとしても、ほかの薬局へ行ってるはず」と。果たして本当にそうでしょうか? もしもほかの薬局へ行っていなかったら、その患者さんはどうなってしまうのでしょう。
こうした現状を踏まえ、高血圧を例に生活習慣病のアドヒアランスについて薬局としてできることを考えてみたいと思います。/p>

コンプライアンスからアドヒアランスへ

高血圧の治療の目的は、心血管病の発症、進展、再発を抑制して死亡を減少させ、高血圧患者が充実した日常生活を送れるよう支援することにあります。この4月から厚生労働省が「第2次健康日本21」というプロジェクトを始動しているのですが、そこでは平成34年度の血圧の平均目標値として、成人男性134㍉メートルHg、成人女性129㍉メートルHgというふうに、平成22年時点よりも共に4㍉メートルHg低い数値を設定しています。一方で140/90㍉メートルHgを高血圧とすると、薬物治療を受けているのは該当者の5割のみという実態があります。特に30~40代に至っては8~9割りが未治療と推測されています。こうした現状を改善するために薬局ができることの一つとして、店頭に血圧計を置いて、症状に関わらず来局したら血圧を測る習慣をつけていただくという方法があります。そして高血圧の方に受診勧奨を行い、すでに薬物治療を受けている方には服用継続の重要性を理解していただく。これが薬剤師の本来の役割といえるのですが、服薬指導の主目的が薬物治療を受けている人の副作用を予防・早期発見することにシフトしている感は否めません。

WHOは2001年に「コンプライアンスではなく、アドヒアランスを推進する」という方向性を示しています。コンプライアンスとは、患者が治療者の決定に従うことで、アドヒアランスとは、患者が自ら治療に納得し参加することを意味します。慶応義塾大学保健管理センターのウェブサイトにこんな情報が公開されていました。患者および医師へのアンケート調査結果なのですが、「高血圧が脳卒中、心筋梗塞などの原因になることを知っている」のは、未治療高血圧患者で約30%、治療中の高血圧患者で約50%。治療中の人でさえ、半分しか理解していないのです。それに対してほぼ100%の医師が患者に対して説明をして、患者は十分理解していると思っているそうです。薬剤師も薬を出すだけではいけません。薬局で、待ち時間に患者さんに見ていただけるような、高血圧の治療意義などを説明するポスターを壁一面に張り出すのも一つの方法です。血圧を下げすぎると血流が悪くなるので、下げないほうがいいのではないかと誤解している患者さんも意外といらっしゃいます。情報が正しいかどうかは別として、活字になった情報の説得力の大きさも無視してはいけません。血圧をコントロールすることの大切さを説明した後で、「あなたの説明は、違うらしいですよ」と店頭に置いてあった週刊誌の誤った記事を読んだ患者さんに言われたこともありました。少々手間はかかりますが、店頭に置く雑誌には事前に目を通して、違うと思った部分、あるいは大事な部分にはマーカーを引くなどして、薬剤師のコメントを挟んでおくくらいの心がけが必要なのかもしれません。

WHOは服薬継続率におけるアドヒアランスの高さを、約8割に設定しています。患者さんの残薬の多さについては、どうして飲まれなかったのか、薬剤師の対応に問題があったと考えるべきです。捨てられるはずだった薬を再利用することが、医療費削減ではありません。薬が継続して服用されることで、病気を改善させ医療費の追加を防ぐことが、真の意味での医療費削減といえるのです。電子薬歴を利用すれば、患者さんの来局がどの程度滞っているのか一目瞭然です。そろそろ受診や来局をうながす連絡を入れるべき時期であることが手軽に分かるはずですし、そういった行為がアドヒアランス向上へとつながるのです。

薬剤師として患者に伝えるべきこと

高血圧症の早期発見や血圧を意識してもらうためには、習慣的に測定することで日内変動、つまりは基底血圧と随時血圧を理解し、早朝高血圧あるいは夜間高血圧、季節の変動などがあることを知っていただくことが大切です。そういった意味でも家庭内血圧の測定は必要不可欠です。

各製薬メーカーによって、生活習慣の修正などに関するさまざまなパンフレットが作られています。薬剤師は患者さんとの会話の中でこうした情報を積極的に伝えていくべきなのですが、実際はパフレットを「ご自由にお持ち帰りください」と置いているだけのところがほとんどではないでしょうか。これらは患者さんに説明をする際、非常に役に立ちます。しかしきちんと管理をしていないと、いざというときにどこにあるのか分からず、有効活用できないままになってしまいます。このような課題を解決するため<GooCo(グーコ)>では、パフレットの内容を検索・表示して、すぐに説明に使えるような機能の実現を予定しているようです。

実際に薬物療法が必要になった際、長期にわたる服用を容易にするためには、1日1回服用の薬剤が望ましく、飲む回数が少ないほどアドヒアランスは高くなります。夜間に薬を飲むときの注意事項として、私の薬局で起こったこんなエピソードがあります。「薬はコップ1杯のお水で飲んでください」と定形文句のようにお伝えしていたところ、胃食道逆流症の患者さんに「薬を飲むようになってから、夜中に何回もトイレに起きるようになった」と言われました。プロトンポンプインヒビターで夜間頻尿が出るのかと、薬局内で問題になったのですが、実はコップなみなみに注いだ水が原因でした。それを機にそのほかの患者さんにも聞き取り調査をしたところ、やはりコップ1杯の水をしっかり飲んでいる人には、夜間頻尿の症状が出ていました。しかし今さらコップ1杯でなくても大丈夫ですよ、などとは言えませんし、やはり薬はたくさんの水で飲んでいただきたい。結果的に就寝前に飲む薬をOD錠に変えることで解決しました。夜間どのくらいトイレに起きるのか、あるいはどのくらいの水で薬を飲んでいるのかは、些細なことのようですが確認を怠ってはいけないと実感した経験です。

私はいつも患者さんに「お食事をおいしく召し上がれていますか?」と聞くようにしています。「何を食べても味気なくてね」とおっしゃる場合は、味覚障害、口渇などの副作用の可能性があります。吐き気がするのも要注意です。「すぐにむせちゃうのよね」という方は、液体を飲むのが困難かもしれません。それでは薬の服用がむずかしいかも。単剤あるいは合剤を用いて服用錠数を少なくし、処方を単純化することはアドヒアランスの改善に有用です。

副作用は、発症機序、発現頻度、患者背景との関係、症状などから早期発見することが第一です。カルシウム拮抗薬の場合、火照りや目まい、ふらつき、頭痛、動悸などは血管が拡張したことによって起こるものといえます。あるいは連用によって歯肉肥厚が起きることもあります。歯肉肥厚の防止に口腔ケアは重要です。定期的に歯医者さんへ行くよう促したり、オーラルケア用品を薬局に置いてみるのもよいでしょう。口渇を引き起こすような薬をたくさん飲むことになるので、唾液が上手に出るような体操を紹介することでも違ってくるはずです。

薬を飲み忘れたのに血圧が上がらなかったため、飲む必要がないと判断して止めてしまったら、しばらくして「血圧があまりに高くて」、と慌てて来局される患者さんもおります。飲み続けることの大切さを伝えるのは重要ですが、それ以外にも血圧が高いときお風呂に入っていいのか、風邪を引いたとき市販の薬を飲んでいいのかなど、店頭でお伝えすべきことはたくさんあります。

お薬手帳に関しては、併用してはいけない薬を明記し、患者さんには服用してからの体の変化を記録するようお伝えしましょう。摂取した食品、血圧値、睡眠の状況などをお薬手帳に記録することで、その人の健康情報が蓄積されていくのです。「今日で薬がなくなっちゃったの。間に合ってよかった!」とおっしゃる患者さんも少なくありません。災害などの緊急時に備えて、自力で生き抜くために最低3日分の常用薬を身につけておく意識も大切です。

薬剤適正使用のためには、患者さんに合った薬の選択と、患者さんが理解し受け入れられる服用方法、予測される副作用とそれが出現した場合の適切な対処法、そして日常生活での注意事項を理解していただくことが重要であり、薬局でお伝えしていくべきことだと思っております。

(※この記事は、2013年5月20日に開かれた「第2回 薬剤師力向上セミナー」(弊社主催)の内容をもとに構成したものです。)

堀 美智子(ほり みちこ)氏
薬剤師。医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー取締役/医薬情報部門責任者。一般社団法人日本薬業研修センター 医薬研究所所長。名城大学薬学部卒。同大薬学部医薬情報室、帝京大学薬学部医薬情報室勤務を経て、1998年から2002年日本薬剤師会常務理事。主な著書に『OTC薬ハンドブック』(じほう)、『ハイリスク薬説明支援ガイドブック』(じほう)など。

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